入浴後、お風呂のお湯をすぐに抜いてしまうのはもったいないと感じる方もいらっしゃるかと思います。一方で、お風呂の残り湯の利用には衛生面での懸念があるという声もあります。追い炊きして再利用したり、残り湯を洗濯に使ったりすることに対して、不安を抱く方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、お風呂の残り湯の利用について、微生物の視点から考えてみましょう。
残り湯にはどのくらいの細菌がいるのか?|一晩放置すると、数千倍に増加!
そもそも、残り湯にはどのくらいの数の細菌がいるのでしょうか?
実際に、「浴槽にお湯を張った直後の風呂水」、「入浴直後の風呂水」、「入浴後一晩放置した風呂水」の細菌数を、3つの家庭で調べてみました。
調査の結果、お湯を張った直後の細菌数は1 mLあたり数十個程度だったのが、入浴直後の風呂水では数百個から数千個に増えました。さらに、入浴後一晩放置した風呂水では細菌数が数十万個から数百万個と、お湯を張った直後の数千倍に増えました。また、入浴人数が増えるほど細菌数も多くなる傾向が見られました。
※データはあくまで一例です。状況により、細菌が増殖する場合もあれば、増殖しない場合もあります。入浴時の人に付着している汚れ・菌の量や、浴室温度などの要素によって変わります。夏場で室温が高い状態や汚れの多い状態などの条件が揃うと、データのようになりやすい傾向にあります。
風呂水中の細菌数
入浴人数 | 入浴前 | 入浴直後 | 一晩放置後 |
---|---|---|---|
2名 | 40 | 110 | 250,000 |
3名 | 40 | 360 | 290,000 |
5名 | 80 | 2,700 | 1,200,000 |
残り湯の放置は衛生的には好ましくない
残り湯の細菌は主に人の身体(皮膚など)に由来するものであり、通常は病気の心配はありません。
節水や環境保護の観点からも、お風呂の残り湯の活用は有意義だと考えられます。
ただし、衛生的な面を考慮すると、残り湯を使用する際には注意が必要です。可能な限りその日のうちに使用し、できるだけため置かないようにしましょう。
なお、循環式浴槽や温泉施設における健康被害でたびたび問題になるレジオネラ菌は細菌の一種であり、本来土壌や水環境で広く生息していますが、条件が揃うと配管内や貯湯槽などで増殖します。そして、レジオネラ菌を多く含む霧状の細かな水を吸い込むことで感染を引き起こします。健康な人が感染をする可能性はありますが、高齢者、病人など抵抗力が低下している人のほうが感染する可能性が高いです。
レジオネラ菌は約20~45℃が増殖可能な範囲であり、配管内や貯湯槽などに存在するぬめり(バイオフィルム)で増殖する特徴があります。
家庭用のお風呂では、お湯を1〜2日程度で交換し、定期的な清掃を行っていれば、レジオネラ菌の増殖リスクは特に高くないと考えていいでしょう。
残り湯を使うときに注意することは?|洗濯の場合
残り湯を利用するときには、どのようなことに注意すればよいでしょうか?
洗濯への利用を例に考えてみましょう。
洗濯は菌を含めた汚れを落とすために行いますので、除菌を主な目的とするものではありません。したがって、菌数に過度に気を配る必要はありません。ただし、洗濯物が菌が多く付着したまま乾燥すると、生乾き臭の原因になることがありますので、一定の注意が必要です。
残り湯には菌が多い傾向があるので、水道水との使い分けがおすすめです。「洗い」の工程では洗剤を入れますし、その後に「すすぎ」の工程もありますので、残り湯を使用してもさほど問題にはならないと考えられます。しかし、「すすぎ」では残り湯ではなく、水道水を使用するのがおすすめです。
残り湯を衛生的に有効活用しよう
以上のことをまとめると、次のようになります。
- 風呂の残り湯は放置すると菌が増殖するリスクがある。特に、夏場で室温が高い状態や汚れの多い状態での入浴などの条件が揃うと数千倍にも増える。
- 衛生の観点から考えると、残り湯は入浴したその日のうちに利用するのが望ましい。
- 洗濯に使用するときには、洗いは残り湯、すすぎは水道水といったように使い分けるのがおすすめ。
これらのポイントを守ることで、より衛生的に残り湯を活用できるでしょう。